僕はしばらく黙って電話を見ていたけれども、きっとあの薄ら笑いの沖岡だろう思って電話に出なかった。

今電話に出ると発狂しそうになる。

電話は留守番電話に切り替わった。

そして『ダイマデンワニデルコトガデキマセン』、電子音が流れた。

電子音が妙に僕の感情を落ち着かせた。

僕は自分で選択し、引き起こした事象に優越感を感じながら、「嘘なのに、俺はここに居るのに」と電話越しの誰かに言ってやった。

無意識に薄ら笑いがこぼれ自分でも気味悪いくらいだった。

「さあ、何かしゃべれよ。聞いてやるよ」

電話越しに街の喧騒が聞こえた。そこには、僕が存在してはならない世界が広がっているのだと感じた。

孤独。

しかし僕同様に電話越しの誰かも孤独な喧騒から救いを求めるかのように、そこで放心し、絶望している様に感じた。

それはもう一人の僕なのかも知れない。
なぜだかふとそう感じた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
長い沈黙があって、その後、相手は黙って電話を切った。

切れた後「ジュウゴジ、サンジュウイップンデス」電話が電子音でそう言い残した。

そしてヒステリックな電子音が「キィーーーーー」と信号を発すると、プツリと電話はなりを潜めた。

「嘘なのに」

僕は再びそう言うと、ドラム缶のある、空き地に戻る事にした。

『いい気なものだ』、心の中で僕は、誰かに罵声を浴びせた。