じぃっと見つめられていると、何だかここに座っているのがつらくなる。

課長はあれから一言も喋らないまま。

責められているようで逃げ出したくなる。


「課長、あの……さっきのアレは……」


たまらず自分の方から口火を切る。

だけど、課長の射抜くような鋭い眼光に体が竦み、喉が詰まる。

「ア……レ……は……」

やばい。
言い訳に時間が掛かり過ぎれば、過ぎるほど、発する言葉は嘘っぽくなる。
この沈黙は、致命的だ。


おもむろに課長は席を立ち、私に背を向けた。

「急で申し訳ないが、現地でトラブルが発生した。30分ほどしたらここを出る」

「えっ?!」

「お前に恋人らしいこともしてやれない上、傍にいてもやれない。電話をしていても、この間は上の空だった。本当にすまないと思う」


課長?

いつもの課長らしくない。

いつもだったら、『バカヤロー』って怒って、私が『すみません!』って謝って、それで課長はしょうがないなって笑っておしまい。


それなのに、どうして今は……

「課長?」

おずおずと課長の背中に手を伸ばそうとする。

「これじゃ、お前に愛想尽かされても仕方ないな」

自嘲気味に課長が背中で笑う。

「今まで、本当にすまなかった」


今まで……すまなかった、って。



なんやねん、それ?!


まるで別れを予感させるような課長の言葉に力が抜ける。



でも、次の瞬間、なんかムカムカっと怒りが沸いてくる。



無言のまま、私の体が怒りのパワーでフツフツと煮えたぎる。



「杉原?」


その沈黙に気付いたのか、課長が振り返るのと、ほぼ同時に放った私の平手が、課長の左頬にパッチーーンとクリティカルヒットしてしまっていた。