仕事で疲れてて嫌になっても、
営業が終わればさとみの手料理があるって思うだけで気分が晴れる。

単純すぎる。
でも、今はそれでいい。

その日の営業が終わる。
さとみが今日は用事があるからまっすぐ帰る。
店に行く前に家に寄って、煮物を置いていくと言っていたので、
今日は少し残ってから帰る。

家に着くと鍵が開いていた。
玄関を見ると女物の靴。
部屋のドアが開く。

「ハル遅いよ!もう!部屋も散らかってるし〜!」

真っすぐ帰るって言ったじゃねーか。

「来てるなら来てるって言えよ!早く帰れたのにもう時間ないじゃん!」

黙って手を繋いでくる彼女。
部屋に入るときちんと整頓されていて、
キッチンに行くと、
ご飯が炊いてあって、
煮物が鍋に入ってた。

「あ、ありがと。」

繋いでいた手を離し、
さとみは

「あんま嬉しそうじゃないねぇ。」

と言った。

「びっくりしちゃってさ。毎日こうだったらいいのにって。」

「本当かねぇ。うざいとか思ったんじゃないの。」

何そのネガティブさ。

「んな訳ねぇだろ。」

軽くさとみの頭を叩く。

「いて。やばっ。こんな時間だ!もう帰らなきゃ。ハルが遅いから全然会えなかったじゃん!」


僕が悪いんですかね。


タクシー乗り場まで、
さとみを送る。

「食べ終わったら感想聞かせてね!それじゃ!」

軽いあしどりで家へ戻る。


早速煮物をおかずにご飯を食べる。

おいしい。
お世話でもなんでもなく。
一口一口噛み締める。

さとみにメールを送る。

この頃から口や態度に出さないがさとみを独占したくなった。

口に出せば、
お互い我慢しているものを壊すことになる。

それだけは我慢した。