「早瀬君」


もう数歩で『バイバイ』を言うような距離。


私は、今日、早瀬君に聞きたかったことを思い出して、くいっと彼の脇腹辺りのシャツを引っ張った。


「……何?」


早瀬君は私に合わせて立ち止まり、背の低い私にとって結構高い位置から見下ろした。


「恵美ちゃん達がお化粧してくれたんだけど……、
に、似合ってるかな?」




よりによって、今日私が一番聞きたいことはこれだった。


そして、一番欲しかった言葉は、早瀬君からの『可愛いよ』だった。


さっきからの話の流れからはまるで違う話題に、早瀬君は少しだけ目に驚きの色を滲ませる。


そして、ふわっといつものあの柔らかい笑顔で、





「全然似合ってないよ」



と、言った。