「気付けなくって、悪かった」


ゆっくりと近づく。

恐る恐る、まるで警戒心の強いノラ猫をあやすかのように慎重に。


「でも俺も・・・お前に会いたかった」


今になってもう一度伝えられる言葉。


「お前だってわかる前はマジでムカついてたのは事実だ。
だけど・・・


だけど・・・



お前にまた会えて、スゲー嬉しい」



二度目の言葉は今度こそ確実に届く。




「やっぱり今でも好きだ」




自分の気持ちと違ってこの男の『好き』は幻想だと思ってた。
そう思うと自分だけが『そう』思ってるみたいで悔しかった。



(あれ・・・?ウチ・・・)




(コイツのこと、好き・・・・・・?)





不機嫌だったのは自分の方を見てくれないから。

口之津が不機嫌で嬉しかったのは、自分のことを考えてくれてるから。

有明先生の名前を出して悲しい顔をさせれば、優越感に浸れる。





(ウチ・・・ただの独占欲の強い女じゃん・・・)




気付けばすぐ目の前に満たされた顔をして口之津が立っていた。

その嬉しそうな顔がムカつく。


「ちょーしに・・・のんなっ・・・」


可愛げのない言葉にもニヘラと笑う。




今度は優しく抱きしめられる。


戸惑いながらも素直に受け入れた。



初めてこの男に素直になれた気がした――。