有明先生と瑞穂さん

有明が小浜を見て、ゆっくりと口を開く。

小浜はそれを見て嬉しそうな顔をする。



瑞穂にはそれがスローモーションに見えた。



やめてやめてやめて、
有明先生、それだけは嫌――。


お願い、わかって。





「僕は・・・小浜先生と・・・」


「!」



誰もが息を呑んで有明の言葉を待つ。








「・・・実は以前から小浜先生は噂を信じていらっしゃったみたいで、僕達をかばうために『付き合っていることにしましょう』と提案して頂いたのですが・・・お断りさせて頂きました。

今回もせっかく気を遣ってくださったのに、すみません」






「・・・え・・・っ?!」





小浜の顔色が変わる。



「え?何?どういうこと?」「意味わかんない」「小浜先生と付き合ってるって嘘をつこうとしてたって?」「何ソレ?なんで小浜先生?」


ザワザワと騒ぎ出す生徒達の声に小浜の顔が赤くなる。



「あっ・・・有明先生、どうして・・・」

「すみません小浜先生。貴女にまで迷惑はかけられない」


「・・・・・・っ!」



この事態には有馬達も騒ぎ出した。


「何ソレ?!あの女そんなことしようと・・・抜け駆けじゃない!!」

「有馬、声抑えろって!」

「アハハっ、でも小浜センセー、今フられたよね。ウケるぅ~」

「こら深江っ!」


深江の声に廊下の生徒達までもがクスクスと笑い出した。

そもそも女子からは嫌われていた小浜だ。

いい気味だと誰もが笑う。

「皆の前でフられたって」「ブフッ!見てあの面食らった顔~」「悲惨~!」

その中傷は少し前まで瑞穂に向けられていたものだ。

今それが一斉に小浜へと向く。


小浜はカッと顔を赤くして唇を噛み締めた。


「ど、どうして・・・っ」


小浜が有明を睨みつける。


――人前で恥をかかされた。


計算高くプライドの高い小浜が初めて見せた本当の顔だ。