「き、聞いてたんですか・・・?」

「んー?あんまり聞こえなかったけどなんかヤバイのだけは伝わったから。
勘違いだったか?」

「・・・・・・いいえ、その・・・」


有明先生とのことがバレなかっただけで瑞穂はほっとする。

口ごもる瑞穂を見て口之津は舌打ちをした。


「ったく、あれだけ注意しただろうが!小浜はうさんくさいって!」

「あ・・・そういうこと言ってましたね」

「言ってましたねじゃねえ!
結局インネンつけられてたじゃねーか!

・・・しっかし、俺もアイツの本性見たのは初めてだけどよ。

女ってコエーな」

「・・・・・・」



口之津が返事のない瑞穂の方を向くと、瑞穂は目にいっぱい涙を溜めていた。


「泣くなって!そんなに怖かったのか?!」

「あっ、いいえ、違います!
怖かったのは怖かったんですけど・・・そうじゃなくて・・・」


口之津はため息をついて瑞穂の涙を乱暴に指で拭う。



「晴は悪いヤツなんかじゃねーぞ」


「え・・・・・・」


「そりゃ、大介や祥子達に比べたらおまえのことは知らねー。
けど、小浜よりゃ知ってるつもりだ。
違うか?」

「ちが・・・わない・・・」


「だからおまえは、悪いヤツなんかじゃねえ」


「・・・・・・」



呆ける瑞穂に「悪いな、盗み聞きみたいで」と付け加える。



「いいとこばっかの人間なんていねえよ。
おまえにも欠点はある。

人によっていいヤツか悪いヤツかなんて変わる。

小浜からしたらヤなやつなのかもしんねー。

でも俺は晴に救われた。

それは晴の人柄だよ。


だから、おまえは悪いやつなんかじゃねえ」



さっきの小浜と同じように、しっかりと目を見て話す口之津。

しかし瑞穂の心はさっきの緊張なんてなく、冷たかった指先も今は暖かい。


自然と緩む口元を押さえきれず「うひひ」と変な笑いがこぼれた。


「気持ち悪い笑い方してんじゃねえ」

「口之津先生が柄にもないこと言うから」

「わぁーるかったな!」