――どんなに小浜が『都合のよすぎる偶然』を並べても、証拠がなければ・・・有明が認めなければ意味がないのだ。


それをわかってか、思い通りにならない有明に小浜は奥歯を噛みしめる。




「もうよろしいですか?
今日は早く仕事を終わらせて帰りたいんです」


「ま、待ってください!」


有明がパソコンに向き直ると小浜は声を上げた。

職員室内にいる教師数人がその声に反応してチラチラとこちらをみる。

小浜はハッとして口元を押さえた。



「まだ・・・・・・何か?」


不機嫌な態度を全面に出した有明に、小浜は一瞬怖気づく。

しかし引くことなく、小浜は一度息を吐いて笑顔を作った。



「布津君と瑞穂さん、付き合ってないそうじゃないですか」


「・・・・・・」



「どうしてあんな嘘をつく必要が・・・・・・?」




有明はキーを打つのをやめ、もう一度小浜に向き直る。


――――勝った


小浜はそう思った。



「フフフッ」

「!」


しかし突然有明は笑い出した。

まるで今まで我慢していたかのように肩を揺らして笑う様子に小浜は意味がわからない、と眉間にシワを寄せる。


「なに・・・」

「いや、小浜先生がすごく勝ち誇ったような顔をされていたから」

「なっ・・・?!」


また小浜の顔が赤くなる。



「だってそんなの、僕達が付き合っているという証拠にも何にもならないのに」

「!! み、認めるんですか?!」

「例えばの話ですよ」