有明が瑞穂に近寄ろうとすると瑞穂は慌てて更に壁に逃げた。
というよりすでに後ろが壁なのでそれ以上下がることはできないのだが。



「ごっ・・・ごめんね怖がらせて。
もうしないから落ち着いて。
ほら、怖くない。怖くないよー」


「いっ、犬猫じゃありましぇん!」


――噛んだ。



それに有明がプッと笑うものだから余計に恥ずかしい。

めいいっぱい頬を膨らませて怒りを表現するが、それに臆することなく有明は近づき少し強引に瑞穂からクッションを奪い取った。


「変なことしてごめんね。もうしないって約束するから、おいで」

「ううっ・・・」


さし伸ばされた手に自分の手を重ねれば、そのまま引かれてまたソファへと戻った。

驚かせたのは有明なのに、落ち着かせるように向かい合わせに自分の膝に座らせポンポンと優しく背中を撫でる。


「びっくりしたよね」

「う・・・ハイ・・・」

「ああ、背中の『コレ』も戻しておかなきゃ」

「うわあ!そ、それは自分でやりますから!!」



年上だし、今までにも彼女がいたわけだし当たり前なのだが、慣れたような有明には悔しさや恥ずかしさや嫉妬心や劣等感などいろいろな感情が湧き出た。

それでも自分には心構えとしても刺激としてもまだ早いと感じるその行為。


以前有明は自分と『そういうことをしたいと思う』とハッキリ言った。


今日の有明の行動で、自分は待たせているのだと自覚する。



(せっかく先生は私を好きになってくれたのに、私申し訳ないことしちゃってるのかなあ・・・)