『・・・・・・・・・・・・はい』



長い沈黙の後、か細い声が緊張気味に聞こえた。


「瑞穂さん・・・」


『・・・・・』



電話の向こうは無言。
有明も言葉を詰まらせる。

衝動的に電話を掛けたが、何を話すか考えていなかった。



「具合・・・大丈夫?」

『あ・・・はい。ちょっと頭痛がするだけなので・・・。
ねっ、熱とかはないから』


悪いのは自分なのに相手の方が明らかに気を遣っている。
それが痛々しくて、申し訳ない。



「あの・・・・・・」

『せ、先生!』


言いかけたと同時に瑞穂が声を上げた。


『あっ・・・ごめんなさい』

「大丈夫。何?」

『・・・私、昨日のこと何とも思ってないですから。
タイミング悪くてビックリしちゃったけど・・・

先生が・・・あの、私に対して後ろめたいことするような人じゃないってこと・・・・・・わかってますから』

「・・・・・・!」


はじめは早口だったがそれはだんだんとゆっくり言葉を選ぶように瑞穂は言った。


『やっ、気にしてないって言っても自分からこういうこと言っちゃうあたり気にしてるんですけどね!
アハハ!やっぱりその・・・いい気はしないじゃないですか?!』

「うん・・・」


瑞穂のその言葉に安心する。
それでも瑞穂を傷つけたことは事実だ。


「ごめんね」


有明も謝ると、電話の向こうで小さく「ハイ」と聞こえた。

それに有明は心を落ち着かせる。


『それじゃあ・・・これで』

「あっ、瑞穂さ・・・」


ピッ


ツーッ
ツーッ
ツーッ・・・・・・


一方的に電話は切られてしまったが、具合が悪いからだろうと有明は疑うことなくそれで一安心してしまった。



・・・結局、有明の中ではこれでこの話は終わったことになってしまった。