「メリー、メリーや、こっちにおいで」



玄関の横に置かれていた椅子に腰掛けていたお祖母ちゃんがお庭を走って蝶々を追いかけていた私に声を掛けた。


「なぁに?お祖母ちゃん」


しわしわのお顔で目が見えないお祖母ちゃんは私の顔を覗き込んで微笑んだ。



「メリー約束をしておくれ。絶対破ってはいけない約束だよ」
「どんな約束?」


お祖母ちゃんの膝に顎を乗せて見上げてみる。
お祖母ちゃんは私の金色の髪をそっと撫でながら呟くように話し出した。


「知らない人にはついていかない事。」
「付いていかないわ」
「そうかい、あとね。村はずれのお屋敷には近付いちゃいけないよ」
「どうして…?」


村はずれのお屋敷には、もう人は住んでいない。
大きなお庭に、大きなお城みたいな白い家が建っている。
でも、誰も居ないから、お庭の草は私位に背が高くてかくれんぼをするのにとてもいい場所になっている。


「あのお屋敷にはね、怖いものが住んでいるんだよ。」
「怖いものって、吸血鬼とか、フランケンシュタイン?」
「いいや、もっと怖いものだよ。約束だから、あのお屋敷に近付いちゃいけないよ」



お祖母ちゃんはしわしわの手で何度も私の頭を撫でていた。
大好きなお祖母ちゃんの手はいつも暖かくてしわしわでもお母さんの手とは違ったやさしさがあった。