The World

 非道い。
先生は、私の気持ちをわかってくれていたのだと思っていた。いや、今も思っている。
知っていながら、生殺しにするなんて非道すぎる。

「どうしてわかってくれないの? 私、もう先生の生徒じゃない」

――何でそんな事言うの?

先生との思い出が頭の中を浮かんで埋め尽くしていく。全部ほんの些細な事で、思い出と呼べるほどのものではないかもしれないけれど。
不思議な事に、私にとって良い思い出ばかりが次々と浮かんでくる。

先生には何気ないやり取りだったのかもしれない。全部私が勝手に期待していただけかもしれない。
それでも、

「断るなら、ちゃんと振ってくれないと、このままで卒業だなんて」

そんなの、あんまりだ。

どっと涙が溢れて、勢いは弱まることを知らない。


こんな時でさえ、崩れた化粧が気になってしまう自分をとてつもなく嫌になる。近付いた距離が苦しい。

先生は如何にも面倒臭そうにガリガリと頭を掻いた。

「ああ、もう。お前こそ……わかれよ」

苛立った口調に、肩が跳ねる。

「今までの我慢が全部、無駄になるだろうが」

目が先生を捉えて離さない。心臓が止まったのか、時間が止まったのか、涙が流れていくまでわからなかった。