「っ・・・!」

ほっぺに暖かい感触が残る。

まるで私を大きく包み込むように。
そして、ゆっくり静かに耳元で囁く。

「梓」





『今まで、ありがとう』





「・・・一馬っ」

ああ、またさっきの笑顔だ。

私の心を溶かす、あの笑顔だ。
胸をきゅうっと締め付ける、甘い笑顔。


―――――大好き。


「じゃ、梓」

そういうと一馬はそのままの表情で私に手を振った。

「ぇ、一馬は・・・?」

「んー、俺はもう少しここにいるから」

「そっか。じゃあまた月曜日っ」

「またなー、蓮と上手くやれよー」

「ありがとー!」

「・・・」

梓の元気な後ろ姿が消えてゆく。
跳ねた走り、可愛い癖、綺麗なアクセサリー。

全部が俺には光って見えて。

「・・・」

俺はなにをしてるんだ。

「梓・・・」

ただ立ち尽くすしか出来なくて、ため息すら出ない。
・・・久々に泣きそうな予感だ。

「ったく」

俺は少し古びた壁にもたれた。
ちょっとうつむいたまま、梓の事を考えて。

「・・・」

地面が歪むような感覚で、なにかの希望が見えた気がした。

傷つくよりは、まだマシで。
俺は自分に対しても意地を張っていた。

「マジで、俺・・・重傷だわ・・・」

君を、失いたくないんだ。