―302号室 
サクライ ヒカリ―

紙に書かれた番号と目の前の数字を何度も見比べた。間違いない、ここだ。

初めて彼女の名前を知った。下の名前はさっき知ったが、苗字繋がるとまた変な感じがした。

サクライヒカリか。
綺麗な名前だと思った。あの子にとてもよく合っている。


そっとドアノブに手をかけた。だがなかなか開けることが出来ない。果たして、僕は本当にココへ来て良かったのかという思いと、緊張で手に汗がにじむ。
唾をゴクリと飲んだ。
何を言われてもいいじゃないか。
そう思い、ようやくドアを開けた。

大きな窓から西日が射している。先ほどまでの雨が嘘のように、沈みゆく太陽は、部屋を茜色に染めている。


彼女は窓の方を向いていた。
僕がドアを開けたにも関わらず、なかなか振り向こうとしない。もしかしたら、僕が入ったことに気付いていないのだろうか?

どうしよう…ここまで来て、何もしないまま帰るのもどうかと思った。
というより、もう僕に残された時間もあまりなかった。

そのまま僕は、動くことが出来ず、黙ったままドアの前に立ち尽くしていた。