この人なら、私を忘れないでいてくれる。直感的にそう感じた。
けれど、どうすれば良いのか分からず、声もかけられなかった。やはり、誰かに忘れてもらいたくないなどというのは、贅沢な事なのかもしれない。






ある曇った日だった。いつものように彼はいた。そして空の一点をじっと見つめていた。自分でも驚くぐらい、すんなりと声をかけていた。
それを機に、私達はたくさんの話をした。自分がしらなかったことを彼はたくさん知っていた。
代わりに私は、好きなものや、楽しかったことを話した。


毎日がとても楽しかった。
このまま死んでもいいとさえ思った。




けれど、いざこのような状態になると、死ぬのが怖かった。
消えてしまうと言う未知の世界。
先の見えないこれからの行く末。
心配させ、看病をしてもらう事しか出来ない自分が惨めだった。


涙がとめどなく流れた。拭いきれない涙は、冷たいシーツに雨のようにこぼれ落ちた。


そんなとき、ドアをノックする音が聞こえた。急いで涙を拭い、顔を見られぬようにドアとは反対の窓の方を見た。

きっと兄がきたのだろう。そう思った。