佐倉くんに腕を引かれた私は、
佐倉くんの瞳に吸い込まれていくようだった。




唇に柔らかいものが当たり、それが佐倉くんの唇なんだと理解して、それでもやっぱり身動き一つできなかった。



カチャリ、と眼鏡がぶつかる。


目を閉じることも忘れていたキスは、
いつかのようなものではなく、触れるだけの優しいキスだった。






唇が離れても、
佐倉くんは至近距離で囁いた。




「俺は、貴女が好きです。」






そうして、佐倉くんは私の頭に手を回し、抱くように自分の胸に押しつけた。




私は、全ての機能が停止してしまったみたいにぼうっとして、
ただ、佐倉くんの心臓の音を聞いていた。


どくん、どくん、どくんと。






私の後頭部――髪に感じる骨張った手の温もり。












「…もう逃がす気ねぇから。」