「これ買わないの?」
お金、ないんだもん。
お父さんはお金を置いていってはくれるんだけど、大した額じゃないからあまり無駄遣いはできないんだよね。
あたしは、いいのと暁くんに微笑み返した。
そうして買ったのは、手のひらに乗るサイズのイルカ。
と言っても、長さは500mlのペットボトルくらいはあるんだけど。
「それ、気に入ったんだ?」
一応こくりと頷くが、実際に気に入ったのはあの大きいイルカだ。
しかし、そんなことは言えない。
小さいイルカを胸に抱え、お店を出ようと思った時だった。
…暁くんが、いない。
えっ?えっ??
迷子の子供の心境とは、こういうものなのかもしれない。
どうしようもない不安に襲われて、何か大切なものを無くしたときみたいな焦燥感に駆られた。
「――――っ…」
暁くんを呼ぼうと思っても、あたしの口から紡がれるのは言葉なんかじゃなくて。
一度開いた口を、どうしようもなくなってまた閉じた。

