【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐







…帰ってきちゃった。





あのあと、原田さんには急用を思い出したと言ってライブハウスを出た。





みんなは、真剣に準備をしていたから気づいていないと思う。






でも一応、書き置きは残してきた。







“折角見せてくれるって言ってたのに、勝手に帰ってごめんなさい。バンド頑張って下さい。素敵なボーカルがみつかるといいですね。”








帰ってきたことは申し訳ないが、書き置きとしては上出来だと思う。






「…はぁ。」






自然とため息が出た。






もう、あの人たちとは、



暁くんとは会うことはないだろう。





もし仮に、街で偶然会ってもあたしのことなんて忘れているに決まってるし。






たった一度の、奇跡が生み出したシンデレラの魔法。






そうわかってるはずなのに、別れ際の原田さんの言葉が何度も何度も頭をよぎる。






『あいつらはきっと、柚姫ちゃんのことをわかってくれるはずだよ。』







無理だよ、原田さん。





優兄はともかく、こんな無理やり帰っちゃって、また会いたいなんて思うのはただの身勝手、わがままだよ。