「優輔に会うまで思い出せなかったけど、ようやく思い出した。優輔の弟がやってたっていうバンドのこと。」
「…っ」
「この辺りじゃ天才少女なんて呼ばれてた、元Arice(アリス)のボーカル。一度テレビにもでてたよね。」
原田さんの、真っ直ぐな目があたしに突き刺さった。
みんなはまだ準備をしていて、この話が聞こえていることはないだろう。
それが唯一もの救い。
「だけど三年前、突然Ariceは解散し、天才ボーカリストも姿を消した。」
…その通りだ。
アキちゃんの事故から、あたしたちのバンドは、Ariceは解散したのだから。
「そうだよね、柚姫ちゃん。」
原田さんの言葉に、こくりと頷く。
「やっぱりね。どうして隠したいの?」
…そんなの、あたしだってわかんないよ。
でも知られたくない。
ただ、それだけ。
“皆さんには、言わないでくれませんか?”
「……柚姫ちゃん…。」
“それに、あたしが歌っていたのは過去のこと。もう二度と歌うことはありません。”
そう、もう二度と。
あたしは、歌わない。

