暁くんと初めて出会ったとき、ヴォーカルが突然抜けて困っていると言っていたのだ。
そんな今は、暁くんがギターとヴォーカルを務めている。
けど本人は、あまり歌うのは好きではないらしく、ほとんどライブはやっていない状態。
あたしもいつか…。
「柚姫ちゃんが、うちのヴォーカルやってくれたら嬉しいんだけどな。」
愁生さんの言葉に、はっと顔をあげる。
…ううん、今はまだダメ。
あたしは、笑って誤魔化した。
もっと、もっと。
アキちゃんが守ってくれた歌には、ほど遠いから。
あれを取り戻すまでは。
…そんなときだった。
ふわり、と大好きな甘い匂いがあたしを包み込んだ。
同時に、優しい腕が背中から回ってあたしを抱き締める。
背中に感じる体温に、ホッとする。
「お疲れ様、暁くん。」
「うん、お疲れ。」
回された腕にそっと触れると、 チャンスとばかりに暁くんのキスが髪に落ちる。
「わ…っ、暁くんっ!?」
「んー?」
あたしが慌てても、まるで当然のことのようにキスを止めない暁くん。
みんながっ、みんなが見てるよーっ!!
「や…ダメだってば…っ」
「どうして?」
どうしてって!
「みんなが見てるんだってばっ」
「みんな?変だな、俺には柚しか見えないよ」
「っ…暁くんのバカッ!」
「怒ってても可愛いね、柚」
「~~~~っ」
…結局暁くんには、勝てなかった。
「やれやれ、お熱いことで。」
「かき氷が溶けんだろーが」
愁生さんと優兄がそれぞれ文句をこぼした。

