「…あんたに、関係ない」
「関係あるさ」
本当に、嫌な奴…。
「…どこで聞いたか、知らないけど、脅しにはならない」
「そうかな」
…脅すつもり、か。
最悪だ。
何かキツイことでも返してやろうかと顔をあげた。
「…なんてね。そんなことしないよ」
「は…?」
ふっ、と不敵な笑みを浮かべたそいつは冗談っぽく言ってのけた。
「諦めたその夢、俺と一緒に叶えよう」
「…なにそれ」
「別の形ではあるけれどね。君はピアノが弾きたくて、俺は優秀なキーボードが欲しい。」
「…別に、弾きたくない。」
「今に弾きたくて仕方なくなる。」
その時は、何言っているんだと思った。
一度ピアノを諦めた俺が、またピアノを弾きたくなるなんて、そんな馬鹿な話があるものか。
「…そんなの、なるわけがない。」
「なるとも。俺たちの音を聞けばね」
…なるわけ、ない。
ずいぶんと自信満々なものだと思う。
それに…。
「…あんたは、一つ間違っている」
「へぇ?」
「…俺はもう、優秀なピアニストなんかじゃ、ない。」
「そうだね。確かにそうだ」
…なんだ、今頃。
意味がわからなく、眉をひそめる。
すると奴は、ふっと可笑しそうに笑った。
「言わなかったかな。俺たちが欲しいのは、優秀なピアニストなんかじゃない。キーボードだ」
「……」
「俺たちと同じ夢を見よう、李織」
なんなんだ、こいつは。
馴れ馴れしいし、しつこいし、ウザイし、知ったような口をきくし。
こいつのことは、一生かかっても好きになれないと思う。
けれど、どうしてなのか。

