「…じゃあ、わかった。今日は帰るよ。」
一瞬ホッとしかかり、慌ててまた気を引き締める。
今日は帰る?まさか…。
「また明日来る。他のメンバーも連れてくるから」
また明日?冗談じゃない。
「もう来ないで。」
俺はそう言って、その場から足早に立ち去った。
なんだあいつは、いきなり。
イライラしながら、大学を出た。
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「…その時のアキ第一印象は、最悪。」
李織さんは相変わらず眠たい目のまま、緑色のかき氷を口に運ぶ。
…さっきからハイペースで食べてるけど、キーンとしないのかな。
「それから、毎日のように来て。ホントに、しつこかった…。」
げんなりとして言う李織さん。
その様子から、当時どれだけ嫌だったかが伝わってくる。
ってか暁くん、ホントにしつこすぎだよ…。
ちなみに、大学校内でレポートに追われる暁くんがクシャミをしたのは、あたしが知るよしもない。
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「おはよう、倖浪くん」
…また来た。
「…もう、いい加減諦めてくれる?」
「無理。」
…ああもう、本当に。
「…かえ…―――」
「君は、ピアノの天才だった。」
…なに?
「けれど、事故によって君の左手には軽い後遺症が。」
…なんで、こいつが。
「男女関係のもつれなんかで諦めてしまってもいい程、君の夢は脆かった?」
…ふざけるな。

