【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐






「…誰。」




不機嫌を隠すことなく、険を含んだ声で尋ねるとそいつは笑みを崩すことなく答える。






「桐野 暁です。はじめまして、倖浪くん」





優男、紳士的、そんな形容がよく似合いそうな立ち振舞い。




「…で、何。」




…たぶん、いや絶対に。




こいつは好きになれない。




そう確信した。






「うん、話があってね。聞いてくれる?」





「じゃ、聞きたくない。」





「即答だ。」





奴は、クスッと可笑しそうに笑った。




…なんかイラつく。





「…帰ってくれる?」





「話をしてからね」





「…じゃあ何。」




聞こえるように、わざと盛大なため息をついてやる。





しかし奴は、そんなことを気に留める風でもなく、予想外の爆弾を投下して来たのだった。









「俺と、バンドやろう」






…は?





「…なに、それ。」




いきなり、何を言い出すかと思えば。





「んっ?バンド、知らない?」




「…知ってるけど。そうじゃなくて、なんで?」





すると奴は、ふふんと不遜にほくそ笑んだ。





「今、キーボードを探している。けど、なかなかいい人材がいない。」





「…へぇ?で、なんで俺?」





「とぼけたって無駄だよ。俺は知ってるから。キミの音は、俺が望み欲する音だと、ね?」






…なんか、ウザイんだけどマジで。






「聞いたこともないくせに、わかるわけがない。帰って」





俺の拒絶の言葉を聞いて、奴はなぜか笑った。





「それもそうだね。じゃ、聞かせてよ」





「…聞こえなかった?帰って」