「あたしっ、絶対に別れない!!」
「…じゃ、どうしたらわかれてくれる?」
「だから、別れな…」
ああもう、めんどくさい。
「よく考えたら、俺は最初から君が好きではなかったと思う」
「な…っ!!最低っ!!」
…それからは、よく覚えていない。
ただ、人から聞いた話によると、階段の踊り場から下に落ちたらしい。
その時に、左手を。
リハビリをした。
懸命にリハビリをした。
けれど、いくらリハビリをしても、ピアノを弾いても、満足のいく音が出ることはなかった。
…そして俺は、ピアノをやめた。
夢を、諦めた。
それから俺は、地元の四年制の大学に進んだ。
そしてそこで俺は、とある出会いをする。
「李織」
「…何?」
「あいつが、お前に話あるって」
それまで昼寝をしていた俺は、話しかけてきた人物をじっと見上げる。
愁生は、俺の高校時代からの数少ない友人…だと思う。
「…話?」
めんどくさいなぁと眉を潜め、あくびをすると愁生は苦笑いをした。
「悪い、勝手にお前のこと話しちまった。」
「は…?」
なんとなく嫌な予感がし、さっきよりさらに眉間にシワを寄せた。
「とにかくさ、話だけでも聞いてやってくれない?」
「…やだ。」
「李織、そんなこと言わずに…」
「めんどくさい。」
そんなときだった。
「そんなこと、言わないで欲しいな。」
聞き覚えのない声に、渋々顔をあげる。
そこには、茶髪のいかにも軽そうな奴が一人。
ニコッ、という嘘っぽい笑みが、どうも好きになれない。

