【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐






「…聞きたいの?」




「へっ?」





さっきまで原田さんにしてやられていた李織さんは、いつの間にかあたしの隣に座っていて。




いつもと同じ、眠そうな目でまっすぐあたしの顔を覗き込んでいた。





「えっ、えっと…。聞いても、いいんですか?」





「…別に、大した話じゃない。気になるなら、教えてもいいけど。」





正直、気になっていた。




けど、そんな理由で人の過去に首を突っ込んでいいのかとも思う。





「…言ったじゃん。トラウマとかじゃない、って。もう、昔の話。」




それは、踏み込んで来てもいい、ということ。





あたしは、ゆっくりと頷いていた。






***********






「…残念ですが、若干の麻痺が見られます。リハビリ次第でピアノを弾けるようになりますが、元のようにというわけにはいきません。プロは、無理でしょう」





俺が、高校3年生のころだっただろうか。





薄暗い診察室で、白衣のよく知らないおっさんに告げられた、冷たい言葉。




絶望だった。





俺は幼い頃からプロになることを目標に、ずっと頑張ってきた。




それが、なぜ。




拳をきつく握りしめ、苛立ちを壁にぶつけた。




こんなことになってしまったのは、些細なことが原因だった。










「何よ、それ。」




「だから、別れよう。」




「なっ、なんでよ!あたし、別れないわ!!」




俺は知っていた。



彼女は、別に俺でなくともいいということを。




ただ俺の顔が整っていて、家が金持ちで、優秀なピアニストだから。



しっているんだ、全部。