そう言えば、李織さんがそんなことを言っていたのを今思い出した。
“アキが輝かせてくれるよ”
“俺も、助けられたからわかる。ムカつく奴だけど、いい奴。一度諦めたことでも、もう一度導いてくれる”
李織さんも、暁くんに助けられた…って。
じゃあ、李織さんは一度ピアノを諦めた…?
「…ま。柚姫ちゃんだし、いいか話しても。」
え?
「李織の話、気になるだろ?」
「えっ、でも…。いいんですか?」
「いいよ。李織も…。」
「何、勝手に決めてるの。」
ひやり、とした声が背後からしてあたしの心臓がドキリと跳ね上がる。
「わぁあっ!?い、李織さんっ!?」
「勝手に人の昔話する癖、止めてくんない?」
「えー?ダメだった?」
李織さんに、不機嫌に睨まれても原田さんはケラケラと笑っている。
「…はぁ。言っとくけど、トラウマとかじゃないし。」
「知ってるとも。お前は強い子だもんな?」
大きな手で、まるで子供にするみたいに李織さんの頭をなで回す原田さん。
ガシガシと、あれじゃ頭がボサボサになる。
「…止めてって、言ってるじゃん。」
その手を、バシッと勢いよくはたき落とす。
「なんだ李織、照れてるのかぁ?」
「…ウザイ。」
「はっはっは」
な、なんだろう、この光景…。
あの李織さんが、原田さんに負けている…!
すごく不思議な光景だった。

