また飴!?
などと思った途端、手がひっくり返りパチンッと額に痛みが走る。
デコピンだった。
「いった…ぁ」
「どいて。」
あたしが痛みに悶える姿に、ふっと笑みを溢した李織さんは淡白にいい放つ。
「へ?」
「俺が弾く。だからそこ、どいて。」
ええっ!
「李織さん、でも…寝るんじゃ…?」
「…目ぇ覚めたって、言ったじゃん。」
とか言いつつ、いつもの眠そうな目のままだ。
あたしが不安げに、じっと顔を見ていたのに気付いたのか、李織さんの整った眉が微かに寄せられる。
「…言っておくけど、眠そうな顔なのは、元々だからね」
「へっ?あっ、はぁ…」
「早く、そこどいて」
段々イラついて来たのか、少し強い口調になり、あたしは慌ててよけた。
「…さっきの曲で、いいの?」
「あっ、はい!わかりますか?」
「…聞いたことあるし、平気。けど、一番しか無理だから」
そう言うや否や、李織さんはさっきあたしが弾いた曲と同じ曲を弾き始める。
…うわ、さすが上手い。
まだ前奏だけなのに、さっきのあたしと比べると天と地ほどの差がある。
なんてキレイな弾き方をするんだろう。
李織さんの細くて長い指が鍵盤を滑り、滑らかで完璧な旋律が産み出される。
おんなじピアノのはずなのに、音色がまったく違う。
思わず、聞き惚れてしまった。
「…歌って。」
李織さんのそんな声に、はっと我に返るとすでにAメロにはいる寸前だった。