最近、李織さんはあたしに対しても笑顔を見せてくれるようになった。




李織さんは人見知りが激しくて、ホントに親しい人間にしか笑わない。



そんなことを愁生さんから聞いた。




だからちょっとは、ここに馴染めているのかなと嬉しくなる。




「…赤点、取らないようにね」



「取りませんよっ」




あたしがむくれているのに気付いた李織さんは、ほんのりと笑って手を差し出した。





「なんですか?」




「あげる。だから、怒らないでね」




あめ玉が3個、手に乗っていた。




…子供じゃないんだから。




あたしが苦笑いすると、李織さんは不思議そうに首をかしげた。






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「ところで、暁くんたち来ませんね?」




「…ん、長引いてるのかな?」




暁くんたちは、まだこの場にいなかった。




大学で、なにか提出しなくてはいけない課題があるとか、なんとか。




李織さんだけは、その授業を選択していないのでここにいる。



「勉強も一段落しちゃったし、暇になりましたね」




「…そう?」




とか言いつつも、いつものように大きなあくびをする李織さん。





「じゃ、暇なら歌えば?」




「歌?」




思わず聞き返すと、李織さんは眠そうに目を擦りながら、



「そう、歌。」




と答えた。




「歌、ですか?うーん…。」




しばらく悩んでから、そう言えばここにはピアノがあったことを思い出す。




「…そうですね。気分転換に、少しだけ。聞いてくれますか?」



「…いいよ。たぶん途中で寝ちゃうけど」




「じゃあ子守唄にでもしてください」