『…はい。』




やがて、スピーカーから聞こえた声には聞き覚えがあった。




アキちゃんの、お母さんだった。




暁くんのマンションのインターホンには、カメラが付いていたけれど、ここには付いていないみたいだ。




あたしが黙っていたから、どちら様ですか?と聞き直されてしまった。




一度深く深呼吸をして、震えそうになりながら口を開いた。





「お、お久しぶりです…。此花、です…」




『…―――!!』





プツッ!!



即効で、切られた音がした。





…罵られることさえ、ないんだ。



返って怒鳴られた方がマシだったかもしれない。




あたしの罪は、許されることはないんだね。




間違っていた。




やっぱり、この声は封じなければ。





帰ろうと踵を返した時だった。









「…柚姫ちゃん!!」




バタンッと家のドアが開いたかと思うと、アキちゃんのお母さんが慌てて飛び出したのが見えた。





「柚姫ちゃん…よね?」





ゆっくりと頭を下げたあたしを、アキちゃんのお母さんは家の中へ招き入れてくれた。






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アキちゃんの家は、何も変わっていなかった。




匂いも、家具も雰囲気も、何もかもあの頃のまま。




ただ違うのは、仏壇にアキちゃんの写真が飾られていることだった。




まさか線香をあげさせてもらえるなんて、思わなかった。




その一つ一つの動作を惜しむように、ゆっくりと手を合わせた。




線香の煙が細い筋となって登り、チーンと鳴らした鈴の音がだんだんと消えて行く。