「傷、大丈夫か?」
京ちゃんは心配そうに、そう聞いた。
“痛くないからもう平気”
「そうか。ホントごめんな?兄貴のせいで」
ちょっと笑って首を振ると、京ちゃんもようやく表情を緩めた。
この時優兄は、お母さんに呼ばれて一階に降りていて、今この部屋にはあたしと京ちゃんの二人しかいなかった。
「でも、本物の変質者じゃなくて良かった」
ホントにね。
「…柚。」
…何が起きたのか、一瞬わからなかった。
ただ、温かくて、力強くて。
京ちゃんの、匂いがした。
「…ホントに、良かった」
京、ちゃん…?
「あれが本物の変質者で、俺が通りかからなかったら。そう考えるだけで、ゾッとする」
ぎゅっ、とあたしを包み込む力が強まった。
ちょっと苦しいくらいなのに、なぜかホッとする。
とくんとくん、と心臓が心地よいリズムを刻んでいた。
「…柚、何かあったら、一番に俺を頼れ。すぐに駆けつけるから」
知らなかった。
京ちゃんは、ずっと幼なじみで、小さい頃から一緒に育って。
だから、気付かなかった。
同じくらいの背だったはずなのに、いつの間にか軽くあたしを追い越して、肩幅も知らないうちに広くなって。
あたしを抱き締める腕も力強くて。
こんなにも簡単にあたしを包み込んでしまう。
耳元をかすめる京ちゃんの声がこんなに低くなっているのにも、ようやく気付いた。
京ちゃんって、もう男の子じゃないんだ…。
気付いた瞬間から、あたしの心臓はドキドキと早鐘を打っていた。

