【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐






優兄の言い分は、こうだった。



あたしが帰ったあと、ちょっと送るがてらイタズラを思い付いたらしい。





それが、あれだった。




あたしが本気でビビっているのに気付いた優兄は、焦って追いかけネタばらしをしようとした。




それが逆効果で、あたしは全力で逃げて転んでしまった。




助け起こそうと声をかけたところを、偶然通りかかった京ちゃんが変質者と勘違いして殴り飛ばした。





…ということらしい。





「マジ最低、二度と家の敷居は跨がせねぇ」




「誤解なんだって、ホントに。イタズラのつもりだったんだよ…」




「女にストーカー紛いのイタズラをすることから、まずありえない。そんなの本気で怖がるに決まってんだろ」




「いや、だから………はい、その通りです…。」




「わかったら帰れ、二度と来るな。敷居をまたぐな」




「でももう、跨いじゃったし」



「わかった、今すぐつまみ出す。」




「うわああっ待ってホント待って!」




「知るか」





バッと京ちゃんが拳を振り上げたのを見て、さすがにあたしも慌てる。




間に入って仲裁すると、ようやく二人も落ち着いた。




二人は、昔からこうだった。




仲がいいのか悪いのか。




しかも、弟の方が強いから笑える。




普通、逆だよね。




そのあと、優兄は土下座して(京ちゃんにさせられた)謝った。




“もうしないでね”




「すんなよ、バカ兄貴。」





優兄は、すっかり意気消沈してガックリと肩を落とした。