やだ、やだやだ…っ!!
恐怖で、バクバクと心臓が壊れそうだった。
息を吸っても、うまく吸えなくて苦しくなる。
なにも考えられず、とにかく逃げるしか出来なかった。
…それが、いけなかった。
ズルッ…!
あの教訓は、すっかり頭から抜け落ちていた。
足元を見ていなかったせいで、氷に気付かず思い切り滑って転んでしまった。
「…っっ」
いった…っ!
膝がヒリヒリと痛む。
急いで立ち上がろうとしたその時。
足音が背後で止まった気配がし、あたしは身体が硬直した。
「おい……――――」
肩に手を置かれた瞬間、あたしの頭は真っ白になった。
「―――や……っ」
「…おいテメェっ!何やってんだっっ!!」
バキッ!と鈍い音がした。
「うわっ、まっ…ちょっとタンマ!!」
…ん?
聞いたことのある声に、あたしはそっと振り返った。
そこには、京ちゃんに馬乗りになられて情けなく助けを乞う、優兄の姿があった…。
***********
「ありえねぇ、最っ低だよコイツ。マジ兄弟やめたい」
「いやだから、ごめんって謝ってるだろ…。」
「黙れ変態」
「だから違うんだって…」
あれから怪我の手当てをしてもらうため、京ちゃんの家に寄り、京ちゃんの部屋に3人でいる。
ひたすら悪態をつきまくる京ちゃんと、平謝りする優兄。
この兄弟がこうしているところを見るのは、久しぶりだった。
「マジ死ね。ってか帰れ」
「京輔、一回でいいから話を聞いてくれ。頼むから」

