【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐







―――あれから2ヶ月あまりが過ぎた。



季節は、とっくに冬になっていた。




人間とは不思議なもので、あんなに辛かったのに、今はもう彼を思って頬を濡らすこともない。



部屋に置かれた、小さいイルカのぬいぐるみと大きなイルカ、そしてウサギのぬいぐるみを見ても、もう涙が溢れるようなことは無くなった。





すっかり慣れた独り暮らし。




ちゃんと戸締まりをして、学校へと向かう。




時間に余裕がありすぎるほど早く出るのは、この前の教訓。




寝坊してしまい、慌ててマンションを飛び出したら、氷で滑って転んでしまったのだった。




同じマンションから出てきたおばさんに笑われてしまい、ものすごく恥ずかしかった。




おまけに両膝の絆創膏を優輝ちゃんに笑われたのも、若干トラウマ。




それからは、決して走らないと決めている。





ふぅ、と息を吐き出すと白い息が鉛色の空に吸い込まれていった。



夕べは、雪降ったんだ。


寒いわけだ。




モコモコマフラーに顔を埋め、雪を避けながら歩く。




ふと、ちょっと先の小道から人が出てきたのが見えた。




お父さんだった。




お父さんもあたしに気が付いて、軽く手をあげる。




「これから学校か?」




こくり、と頷くと「そうか。」とだけ答えて歩調を合わせてくれたお父さん。




渋い顔は、相変わらずだったけれど、以前ほど苦手意識はない。




「…美雪が、今夜は鍋にすると言っていた。来るか?」




“行けたら行くね”




「わかった、言っておく」





お父さんとも、ようやく普通に会話をすることが出来るようになっていた。