もうどうしようもないというのに。



暁くんに、またあの冷たい瞳で見られて、優しさの欠片もない言葉で傷付けられて終わりに決まっている。




反対側の歩道から、もう一度だけ暁くんのマンションを見上げ、学校に行かなきゃと踵を返した。



その時、マンションの自動ドアが開いて、誰かが出てきた。




…暁くんだった。




重そうなキャリーケースを引きながら外へ出て、腕時計を確認している。




暁くんの姿を見るだけで、胸がきゅうんと疼く。




暁くんはあたしには気付いていないようだった。




携帯電話を何度も確認しては、落ち着かない素振り。




誰かを待っているのだろうか。



…ジェシカさん、かな。




もう行っちゃうのかな。




今週中には、とは言っていたけどこんなに早いなんて。




…言いたいことはいっぱいある。



何か言わなきゃ、このまま別れたらあたしはきっと後悔する。



後悔が、あたしは嫌い。



後悔する辛さも苦しさも、嫌というほど知っているから。



知っているはずなのに、怖くて一歩が踏み出せない。




そんなとき、一台の大きくて黒い車が暁くんのマンションの前に止まった。




「お待たせ、暁。さあ、行きましょう?」




車から降りてきたのは、ジェシカさんだった。




同時に運転席から降りてきていたスーツの男の人にキャリーケースを渡すと、暁くんも車に乗り込もうとする。




暁くんが、行っちゃう…!!




思わず名前をよぼうと口を開く。




「―――っ、…!!」




声は案の定、出てはくれなかった。