「君や彼らと過ごせた時間、なかなか楽しかったよ。ありがとう」
そう言って浮かべた微笑みは、見たことがないほど冷たいものだった。
「けれど君には酷いことをした。軽い気持ちで、君の過去やプライベートなことまで首を突っ込んで引っ掻き回して。」
え…?
今、なんて……
「興味本意で君に近付いてみたら、ずいぶんうぶな反応をしてくれるものだから、楽しくてつい、ね?」
興味、本意……
違う、違うよ…こんなの暁くんじゃ…。
「ちょっと甘い言葉を囁けばすぐ本気にして、真っ赤な顔をして。いたずらが過ぎたかな」
…ひどい。
暁くんの言葉が、どんどんあたしの心にじわじわと染みてゆく。
真っ黒な、苦しいものが、混ざりあって溶けて、あたしの心に。
「けれどね、君とのあれはゲームだよ。結局クリアは出来なかったけど、まあ楽しめたから良しとしよう。」
…やめて、もうやめて……!!
「だから……」
もう止めて――――!!!
「―――あら、暁。こんなところにいたのね。」
え…?
ぎゅっと目をつぶり、耳をふさいでいたあたしは、突然聞こえた知らない声にそっと目を開ける。
そこには、あたしの知らない女の人が凛と立っていた。
西陽に照らされた、黒く艶やかな髪を払い、洗練され尽くした仕草で微笑む。
かつて見たことがないほど、綺麗な人だった。
「ジェ、シー…。」
え?
暁くんから発せられた女の人の名前に、その人は満足げに目を細めた。

