「はい」
景品である大きなウサギのぬいぐるみを手渡すと、目の前の女の子は満面の笑顔を咲かせた。
そして、ありがとうと誰にも聞こえない声で言うと幸せそうにウサギを抱き締める。
その愛らしい仕草に、自然と俺も穏やかな気持ちになる。
君は俺をこんなにも、穏やかで幸せな気持ちにさせてくれるのに。
俺は君の、そばにいることすら叶わない。
柚の、笑うとできるえくぼが好きだ。
柚の照れたような困った顔が見たくて、今思えばちょっと恥ずかしいこともたくさんやった。
時折見せる、悲哀を帯びた彼女の表情に胸を痛め、同時に強く惹かれて。
今にも折れそうな華奢な体を、何度も抱き締めたいと思った。
けれど、そばで君を守るのは俺なんかじゃない。
君はもっと、幸せになって。
それが俺の、最後の願いだ。
「柚、行こうか。」
大きなぬいぐるみを抱えて、君は大きく頷いた。
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柚がぬいぐるみをロッカーに教室に置きに行っているときだった。
ヴヴヴヴヴ…
嫌な予感を覚え、ゆっくりとポケットから携帯を取り出した。
ディスプレイに表示される名前は、妹の沙夜だった。
「…もしもし。」
『(アキラっ、大変!)』
「(…思ったより、早かったね。)」
『(はっ?どうしてそんな呑気なのっ!?)』
「(そろそろかなって、覚悟してたからね。)」
電話の向こうで、それまで捲し立てていた沙夜は深いため息をついてようやく黙った。

