“おねがい、はぐらかさないで。”
「………。」
“もう会えなくなる?”
じっと暁くんを見つめ続けていると、暁くんは諦めたように小さくため息をついた。
「…うん、そうなるね。」
…そんな。
あたしが知らず知らず、きゅっときつく唇を噛み締めたのを見て、暁くんは悲しそうな顔のまま微笑んだ。
「そんな顔しないで。」
“いつ、行っちゃうの?”
「さあ、まだわからない。明日なのか、1週間後なのか、はたまた1か月後か、それ以降か…。」
そんなのって……。
いつかは帰ってしまう、というのはなんとなく気付いていた。
それなりに覚悟していたつもりだったし、暁くんの事情だから仕方ないというのも頭ではわかっている。
けれど。
「……っ」
やだ、やだよぉ…っ!!
ぎゅっとつぶっていた目から涙がこらえきれずにこぼれ落ちた。
わかっていても、どこかでそれは間違いなんじゃないかって期待していた。
そんなわけないよ、と笑って流してくれると願っていた。
けれど改めて現実を突きつけられて、あたしは甘かったのだと思い知らされた。
「…俺のために、泣いてくれるんだね。ありがとう。」
暁くんは長い指で、そっとあたしの涙を拭った。
「けど、泣かないで。柚には笑っていてほしいんだ」
くいっとあたしの顎を救い上げ、視線を合わせた暁くんは寂しそうに笑った。
ああ、暁くんにこんな悲しそうな顔をさせてしまうのはあたしのせいなんだ。
あたしがこんなに弱くてわがままだから。
暁くんはもう、覚悟を決めたというのに、それをあたしが引っ掻き回して困らせているんだ。
「まだ帰ると確定したわけじゃないんだ。だから、その時になったら詳しい話をするよ」

