家についたのは、夕日も沈みかけ、空が藍色に染まりかけた頃だった。
閑静な住宅街にあるあたしの家は、大きくもない普通の家。
けれど、あたしが帰ってくるときはいつも真っ暗だ。
けれど、今日は違った。
電気、ついてる…。
いつも真っ暗なはずの家には明かりがついていて、どこからかいい匂いがする。
お父さんがまだいるとは思ってなくて、だから電気を消し忘れたのだろうとその時は判断した。
鍵を持たずに出ていってしまったんだけど、もし開いてなかったら京ちゃん家に預けてる鍵を取りに行かなくちゃなぁと頭の片隅で考えていると。
ガチャリ、と難なく玄関のドアは開いた。
お父さん、鍵かってってよ…。
不用心だなぁ…。
しかし、すぐに異変に気が付いた。
お父さんの男物の革靴は変わらず、けれどその横に女性のミュールがちょこんと揃えられていた。
それを見て、すぐにそれが誰のものか判断に苦しんだ。
けれどすぐに、信じたくはない答えにたどり着く。
バクバクと心臓が早鐘を打つ中、震える手で、リビングのドアを開けた。
「…あ、おかえりなさい」
お…母さん…
エプロン姿でニッコリと微笑むその女の人に、思わずそう言いかけた。
しかし懐かしい母の姿は一瞬でかき消えて、知らない女の人が微笑んでいるだけだった。
あ、あれ…?
一瞬、お母さんに見えた。
優しく微笑みかけてくれていた、あたしの。
けれどその人はお父さんやお母さんよりも若く見える。
似ても似つかない、知らない人だ。

