【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐




おしぼりの冷たさが、泣き腫らした目には心地よかった。




「大丈夫?」




こくっと頷くと、暁くんの優しい手があたしの髪をそっと撫でた。




「辛かったんだね。気持ちの整理が着くまでゆっくりして行きなよ」



暁くんのその気持ちは嬉しかった。



けれどあたしの気持ちはすでに固まっていたし、これ以上暁くんのお世話になるわけにはいかなかった。



ゆっくりと首を振ると、まるでそれがわかってたみたいに暁くんは優しい声音で言った。




「もう、決まっているんだね?どうするの?」




“家出てく。あんなお父さんだけど、幸せみたいだし。”



自分でも不思議なくらいに、穏やかな気持ちだった。




ホントは心の中で、どうしてお父さんばかりが幸せになるのと妬んだ瞬間もあった。




けれど憎むなんて、出来なかった。



ううん、出来るわけがない。





だって…、




“世界で、あたしのお父さんはあの人だけだから”



そう綴った紙に目を通した瞬間、暁くんの目には悲しそうな色がよぎった。



けれどすぐに柔らかい眼差しになる。




「そう。柚は、強いね。」




あたしは強くなんてない。



弱くて弱くて、脆い。




それでも、暁くんがそばに居てくれるから。



弱いあたしを見捨てることもせずに、支えてくれるから。





だから、あたしは…。






こうして、笑っていられるの。




“今日は、ありがと。気持ち楽になったよ”



本心を綴ったそれを最後に、あたしはペンを置いて暁くんに笑いかけた。