「…お父さんが、ね。そういう訳だったのか。」
一人、あたしの言葉を飲み込むように呟く。
あぁきっと、あの一軒家に一人でいるから寂しいんだろうな。
一人には広すぎる。
いい機会なのかもしれない。
…頭では、そう思っているのに。
「――――…」
わかっている、はずなのに。
あたしはあの家を離れたくない。
生まれた時から育ったその家には、それでなくとも少ない思い出が詰まった唯一の場所だから。
あの家が、唯一家族との繋がりを持つと信じていたから。
きっといつかみんな帰ってきて、幸せな家族になれるという淡い期待から、あたしはあの家を守り続けてきた。
たった一人で、両親が離婚してから二年もの間。
ただ夢見ていただけだった。
普通の女子高生のように、普通に楽しい高校生活を過ごして、家に帰れば家族が温かく“おかえり”と言ってくれるようなそんな普通の日々を。
みんなで仲良く食卓を囲んで、談笑できるような普通の家庭を。
たったそれだけのことを、望んでいただけだ。
頭ではわかっていた。
そんなことは、もうあり得ないと。
けれど捨てられなかった。
たった1%の可能性だろうと、諦めるなんて出来なかった。
ただそばに居てくれるだけでいい。
一人にしないで欲しい、そんな願いすら叶わなかった。

