【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐




それから再び車に乗り込んで、信号待ちの時だった。



「柚、どこか行きたいところはある?」



行きたいところ…。



いつものように、暁くんにおまかせにしようかと思った時、ふと思い当たった。



…あそこに、また行きたい。



あそことは、暁くんに初めて連れていってもらった場所。



“あの水族館に行きたい。いい?”



「もちろん。水族館気に入ってくれたんだね。」



にこ、と笑った暁くんにホッと胸を撫で下ろす。



そして暁くんは上機嫌にアクセルを踏み込んだ。










あれから車を走らせてしばらく、車はなかなか進まないでいた。



というのも、渋滞にはまってしまったからだ。



「あちゃー、渋滞かー…。」



なんて言いつつ、ちっとも困った顔はしてない。



…っていうか暁くん、なんかさっきからものすごくご機嫌なんだけど、良いことでもあったのかな。



あたしを退屈させない為か、大学でのエピソードやRainの話をしていてくれてるのはいつもと一緒だ。



けど、今日はなんだかとっても楽しそうっていうか、嬉しそうっていうか…。



“暁くん、なんだかご機嫌だね。”



「え?そうかな」



“とっても嬉しそうに見えるよ。いいことあったの?”



「んー、そうだね。あったかな、すごく嬉しいこと。」



くす、と暁くんは小さく笑う。