「もし君が男だったなら、顔がぐちゃぐちゃになるまで殴っていたところだ。」
「ひ…っ!?」
「覚えておくといいよ。」
震える彼女の耳元に口を寄せ、囁く。
「俺はね、大切な宝物を傷つけられてニコニコ笑ってられるようなお人好しじゃないんだ。また君が柚に何かしたのなら、その時は女の子だからって優しくしてあげないよ?」
目に涙を貯めた春日井 桃佳がコクコクと頷いたのを見てから、手を離し、踵を返した。
広場を出てから、腕時計に目をやる。
まずい、もうこんな時間か。
あんまり柚を待たせるわけにはいかないね。
柚がさっきのことを知ったら、俺を軽蔑するだろうか。
きっと柚だから、いくら春日井 桃佳にひどいことをされたって俺が彼女にしたことは見過ごせないだろうな。
本当に、俺と違ってお人好しだから。
大人げない話だが、俺が黙っていられなかった。
誰よりもわかる。
罪を背負う、あの苦しみは。
責められる、あの辛さは。
柚には、同じ苦しみを感じてほしくない。
そう、柚には笑っていてほしいから。
俺は、彼女が待つところへ向けてアクセルを踏み込んだ。