誰かが入ってくる気配がしたのだけど、また京ちゃんだろうと思って顔は上げなかった。
そのまま無言であたしの前に屈んだのが、なんとなくわかる。
すると、ポンと頭に触れる大きくて優しい手。
「柚…。」
この、声は…。
ハッとして、そろりと顔を上げた。
…どうして。
真っ直ぐにあたしを見つめるその瞳は、想い焦がれた暁くんのものだった。
優しい赤茶の瞳は柔らかく澄んでいて、黒く塗りつぶされそうだったあたしの気持ちにも微かに光がさす。
「…久しぶり。元気?」
いつものように、ふわりと優しく微笑む。
暁くんがなんでここにいるのかは、バカなあたしでも容易く想像できた。
なのに、何故。
いつもと変わらない声のかけ方をするの。
「少し痩せたね。ちゃんと食べてる?」
…そう言えば、最後にご飯食べたのいつだったかな。
記憶にない。
「お腹すいてない?何か食べに行く?」
ダメだ、あたしまた…。
もう一度だけ会いたいと思ってしまったのすら、罪だったのに。
もう甘えないと決めたのに、彼を前にすればこんなにも簡単に決心が揺らいだ。
また暁くんの優しさにすがりたくなってしまう。
必死に理性を保って、首を横に振った。
「…柚、こっち見て。」
いつの間にか反らしてしまったいた視線を、ゆっくりと暁くんに合わせる。
暁くんはやっぱり微笑んではいたけれど、どこかひどく悲しそうだった。
どうしてそんな顔をするのかわからなかった。
「ねぇ、柚。」
けれどまた、すぐにいつもの優しい微笑に戻る。
「前にも言ったと思うけど、俺は柚が好きだよ。」
何を…っ
恥ずかしがる素振りも見せず、暁くんは爽やかな笑みをたたえて言った。
そんな中あたしだけが、ドキッと心臓を高鳴らせる。