「嘘じゃない。優輝ちゃんって子から聞いた。」
「ゆき…?」
京輔くんはつり上げていた眉を、怪訝そうに潜めた。
「春日井 桃佳という子にずいぶんひどいことを言われたらしい。」
途端に、ハッと目を見開いた京輔くん。
…覚えがあるらしい。
それまで力が入っていた右手からも力が抜けて、だらりと下がる。
「…そうか、あいつが。」
「君とも面識があるようだね?」
「あんた、柚のことどれだけ知ってる?」
迷ったが、正直にバンドで歌ってたことも、声が精神的なもので無くなったことも知ってると答えた。
何が彼女をそこまで追い込んだのかは知らないが。
「…マジかよ、そこまで知ってんのかよ。」
ガシガシと雑な所作で髪をかき回す彼は、ため息混じりに続ける。
「モモはな、そのバンドでドラムやってたんだよ。」
…驚きだった。
彼女のかつての友人が、何故あんなひどいことをした?
「モモは表面じゃ柚と親しくしてたが、腹の底では柚のことをかなり嫌ってたんだ。」
才能も瑛も友人も居場所も、あいつはなんだって持ってたからな、と京輔くんはうなだれた。
ただ、一つ引っ掛かることがあった。
「あきら…?」
俺のことではない、とわかる。
同じ名前だ。
「ああ、そこまでは知らないんだったっけ?柚の親友だったやつの名前。宮寐 瑛(ミヤビ アキラ)。」
宮寐 瑛…。

