―――柚っ、柚!
誰…?
―――柚ってば!
だから、誰なの…?
…ううん、あたし知ってる。
この声は…―――。
そっと、目を開いた。
大きな黒板、教壇、乱雑に並ぶたくさんの机と椅子。
そこは、中学の教室だった。
あ、れ…?
「柚ってば!もうっ、また居眠りしてっ!」
腰に手を当てて、眉をつり上げて、あたしを叱りつけるのは、親友の女の子だった。
「アキ、ちゃん…?」
「何よぉ、寝ぼけてんのっ?」
不満そうに口を尖らせる彼女は、間違いなくアキちゃんだった。
染めたばかりのキャラメル色のショートヘアも、気の強そうなつり目も、寸分の狂いもなく。
「ほら、帰ろっ」
あれ…?
「うん…。」
あたし、なんか夢見てたのかな?
でも、思い出せない。
「ねぇ、アキちゃん…。」
「なーに?」
「…ううん、なんでもない。」
くるり、と振り向いたアキちゃんの優しい笑顔にどうでもよくなった。
よくアキちゃんに叱られたりしてたけど、それはアキちゃんが優しいからだって、あたしはよく知っていた。
優しいから、あたしのことを本気で心配して叱ってくれる。
その証拠に、アキちゃんの笑顔はいつだって優しかった。
優しいアキちゃんが、大好きだった。

