「こらっ、お前ら何してるんだ!!」
遠くから警備員さんが駆けてきたのを見て、モモはそそくさとその場を去った。
「大丈夫!?柚ちゃん!」
頬をぶたれて座り込んだままのあたしに視線をあわせて、顔を覗き込む優輝ちゃん。
「柚っ…ちゃ…!?」
ダメだ、頭が回らない。
反応、できない。
「柚ちゃん!!しっかりして!こっち見て!!」
こっちって、どっち…
真っ暗だ。
何も見えない。
あたし、何も見えない。
「…柚ちゃんっ!!…――柚っ!!」
ゆきちゃん…?
ピクッ、とそれまで動かなかった体が反応した。
それでも、魂と体が切り離されたみたいに、体が思うように動かない。
「…ゆき、ちゃん……」
「柚ちゃん…っ。」
「君たち、ちょっと話を聞きたいから警備員室まで来なさい。」
「違います!向こうがいきなり怒鳴ってこの子を殴ったんです!あたしたち…――」
警備員さんと優輝ちゃんが言い争う声が、ぼんやりと頭に響く。
あたし、ここにいたらまた迷惑かけちゃう…。
そんなことが、ようやく頭のなかで考えられるようになった。
そう思ったら、体が自然とするりと立ち上がった。
「柚ちゃん?」
“あたし、帰る。今日は、ありがとう。迷惑かけてごめんなさい”
そんなことを、携帯で打った気がする。
それからのことは、記憶がない。
どうやって家まで帰ったのか、優輝ちゃんはどうしたのか、わからない。
気が付いたら、玄関に座り込んで遠くを見つめていた。
もう、涙すら出ないのだと
あたしは、自分の枯れた心で思った。

