「でも、君の答えはまだ聞かない。」
え…それってどういう…
「君の気持ちは、君の言葉で聞きたい。いつまででも待つから。」
一瞬頭をよぎった可能性に、体がすぅっと冷えた。
そんなわけない、と自らを落ち着かせるように心の中で唱えるけど、一向に落ち着かない。
暁くんは、もしかして…
「ごめん、柚。君の声が前までは普通に出てたこと、知ってるんだ。きっかけさえあれば元に戻ることも。」
必死に違いますようにと祈っていたことは、現実となった。
暁くんに、ばれた。
あたしの罪を、知られた…。
「でも、これはわかってほしい。柚がどうして声を失うことになったのか、その原因は知らない。そのことはいつか、君が俺に話してもいいと思ってくれた時まで聞かないから。」
ぎゅっと手を握られて初めて、手が震えていることを知った。
どうして、暁くんは…。
暁くんにだけは、知られなくなかった…。
「俺が君を救ってあげる。柚の声が聞きたいんだ。」
思いも寄らなかった言葉に、思わず目を見開く。
「だから俺を信じて、柚。」
暁くんの真っ直ぐな言葉には、不思議な力があって。
頑なに知られることを嫌がってたあたしの心は、今かすかに、でも確実に暁くんの存在を受け入れた。
このときのあたしは、暁くんなら…とちょっとした譲歩をしてて。
もし暁くんじゃなかったら、すぐに距離を取ってた。
救ってあげる、と言った暁くん。
暁くんが本当にその約束を成し遂げるとは、このときのあたしはまだ知るよしもなかった。

