「…それに、遠慮してる感じがした。迷ってて、その何かを無理に抑え込んでる感じ…?」




遠慮?




「何に遠慮してるのかは、知らないけど。…ピアノって、弾く人の心を映すもの。本当に弾きたいと思って弾かなきゃ、死んだ音しか出ない。」





死んだ、音…。




つまり、あたしのピアノは聴くに耐えなかったってこと…?




それに“遠慮”って、もしかしてアキちゃんへの罪悪感のこと…?





李織さんには、全てお見通しなんだ。







「…でも俺、あんたの音、嫌いじゃない。」




え…?




「…ピアノよりも、もっと好きなこと、ある?」





好きなこと…。



あたしの頭には、あの事がすぐに浮かんでいた。



けど、答えることは出来なかった。




そんなあたしの心を見透かすみたいに、李織さんはそれ以上は聞かずにさらに話してくれた。




「…きっと、アキが輝かせてくれるよ。」




暁くんが…?




「俺も、アキに助けられたから、わかる。ムカつく奴だけど、いい奴。一度は諦めたことでも、もう一度導いてくれる。」




それって、どういう意味なんだろう…。



もっと詳しく聞こうとしたら、李織さんは「長話、疲れた…。」と言って、どこかに行ってしまった。