容赦ないな、李織。
思わず苦笑すれば、李織の捉え処のない瞳に射られる。
「…可笑しかった?」
「そこそこね。李織、帰るんなら“柚”を送ってくれないか。もう暗いから」
「…いいけど。じゃあ車貸して。歩くのめんどくさい」
そう言うと思った。
ほら、と李織に車のキーを投げる。
「地下の駐車場に停めてるから。どれかはわかるだろ?」
「ん、多分。」
「後でちゃんと返せよ。」
わかってる、と李織は言って部屋を出ていった。
その後を、荷物を持った柚が慌てて追いかける。
と思ったら、俺の前まで来てニッコリと微笑んだ。
「どうしたの?」
嬉しそうな表情のまま、そっと俺の手を取って細い指先で、手のひらに文字を綴り始めた。
「…あ、り、が、と、う…。ありがとう?何が?」
何がありがとうなんだ?
むしろ、ありがとうと言うべきは俺の筈だ。
その質問に答えることなく、柚はもう一度微笑んで部屋を後にした。
俺は彼女の背中が消える前に、声を張り上げる。
「俺こそ、ありがとう。美味しかったよ、ハーブティ。」