夕陽の射し込む、窓際に置かれた真っ白いグランドピアノ。
開けられた窓からは、心地よさそうな風が入り込んでいてカーテンと演奏者の髪をなびかせていた。
背中まであるサラサラの髪は、西陽に透けてキラキラと輝いていた。
そんな中、美しい旋律に身を委ねて弾き続ける彼女。
夕陽に照らされた彼女の横顔は、生き生きとして楽しそうだった。
だけど、どこか悲しそうで。
その光景があまりにも綺麗で…
俺は、言葉を失っていた。
柚姫ちゃんは、初めて会ったときからそうだった。
綺麗な顔に、時折悲哀を滲ませる。
ふと寂しそうに、悲しそうにどこか遠くを見つめる時がある。
そんな彼女の心の傷に、少しだけ触れられたような気がした。
しばらく黙って見つめていると、彼女の頬に光るものがあった。
それは赤い光を反射して、キラキラと輝きながら鍵盤へと落ちる。
それが柚姫ちゃんの涙だと気付いた時にはすでに、俺は彼女の名前を口にしていた。